「だよな。置いて行けば、こんな気持ちにならなくて済んだんだろうな。」

「・・・・・・」


「真里亜が目を覚まして初めて話した時、俺真里亜のこと・・・恥ずいけど『可愛い』って思ってさ・・・」

思わず仁の方を向いてしまいそうだったけど、どんな顔をして向いたらいいのかわからなくて顔を上げられなかった。


仁がどんな顔で話してくれてるのか、見たいけど見れなかった。


「俺、今まで女にそんなこと思ったことってなかった。でも、真里亜は純粋っていうかピュアっていうか」
「同じ意味だよ、それ。」


「あ、そっか。」


つい口を出してしまった私は、余計に顔を上げづらくなる。

むしろ、なんで顔を上げられないのかわからなくなっていた。


あ、仁を傷つけたかもしれないと思って何か言おうと考えてて・・・でも今ってそんな雰囲気じゃない、よね?


これって、私が完全に顔を上げるタイミングを逃したってことだよね?


と、その間にも仁は話を続けていた。


「んで、気づいたら毎日真里亜のこと考えてた。野球のことと同じくらい。野球以外に何もいらないって思ってた俺が、いつの間にか真里亜のことも手放したくないって思うようになってた。」


それを言うと、私の頭に何か温かいものが触れた。

それは仁の手だと気付くのに時間はかからなかった。


仁のその手は私の頭をそっと撫でてくれた。


「でも、だからこそ、今までの自分を考えると真里亜も傷つけちまうんじゃねぇかって思って、裕樹にいろいろと助けてもらった。あいつって俺のこと嫌いなくせにしっかりしてくれるんだもんな。まじで幸せだったわ。」


仁の言葉一つ一つが私の心にスーッと入り込んでくる。

そして、下を向いている私の視界が徐々にボヤけ始めていた。


「それでもやっぱり不安でさ、真里亜のことを突き放そうとした。でも、やっぱり俺の中にいる真里亜は突き放せなかった。で、諦めた。」


「な、にを?」

「真里亜を突き放すこと。」


「なんで・・・?」



「真里亜のことが好きだって、やっと気づいたから。」


その言葉と一緒に私を優しく包み込んでくれた仁。


目からあふれた涙は仁の肩に落ちていった。