不安なのはグラウンドにいてもスタンドにいても同じ。


みんな、不安なんだ。



そんな時、田中先輩が塁へ出た。


ベンチもざわつき始めた。

みんなが少しだけ調子を取り戻そうとしていた。


「ツーアウトでランナー1塁。どうなるかしら。」

田中先輩がチャンスを作ってくれたけど、ツーアウトは変わらない。


藤井君がバッターボックスへ入る。

きっとものすごく緊張してると思う。


2年生でこの甲子園っていう大舞台に立つんだから。


それでも、一生懸命にバットを振る。

カンッ―――


バットにボールが当たってショートを抜けた。


「ヒットだ!」


スタンドが一気にわく。

「「わぁぁぁ!」」


これで1.2塁。


ここで、バッターは仁。

「仁・・・。打って。」


「真里亜ちゃんの気持ち、神野くんに届くといいわね。」

「私だけの気持ちじゃないです。みんなの気持ちですよ。」


「そうね。」

仁がバッターボックスへ向かう。


その時、仁がスタンドを向いた。

もちろん、私たちがいるところを。


だから私は、仁に届くようにそっとつぶやいた。


「仁なら、打てるよ。」



私のこの言葉が聞こえたかのように、仁がヘルメットに触れる。


「あれは真里亜ちゃんに向けた合図だよ、きっと。」

岡本先輩もそう言ってくれた。


そう思って、いいよね、仁。