先輩は尾崎先輩のことが好きなはずなのに「尾崎」って呼んでた。
隆也、って呼びたくてもなかなか呼べなかったんだろうな。
周りに気付かれちゃいますもんね。
今ここでいくら叫んだって、周りの歓声でかき消される。
きっと尾崎先輩には聞こえない。
それでも、いつか岡本先輩のこの声が尾崎先輩に届くといいな。
「やった!ツーベースヒットだよ!?」
「ですね!尾崎先輩かっこいいです!」
「だってかっこいいから!」
「「あははっ」」
そんなこと知ってます。
私だって、きっと今の出来事が仁だったら同じことを言ってると思うから。
そして、次の高橋先輩がヒットを打ちノーアウトでバッター1.3塁になった。
三谷先輩が打てば、尾崎先輩が帰る可能性がある。
私と岡本先輩は二人して、手を握っていた。
二人の気持ちが一つになってるような気になる。
いや、きっと同じ気持ちだと思う。
そして、三谷先輩が、その球を・・・―――
パスッ―――
と、ストライク。
私たち二人は「はぁー」と一息。
でもすぐにまた三谷先輩を見つめる。
でも、ストライク。
追い込まれちゃった。
ここで何とか打ってもらいたい。
そしてピッチャーがボールを投げる―――
カンッ―――
「当たった!」
3塁にいた尾崎先輩が走る。
今のは、スクイズ!