でも、一斗のことだって好き。


私、バカだな。

仁のことを好きだって自覚したはずなのに、それでも一斗も好きって思うなんて。


こんなんじゃ仁に気持ちを伝えるどころか、何もできない。

恋なんて、できっこない。

一斗よりももっと仁を好きにならなきゃ。


それがこの甲子園球場だといいな。


「相手も点が入らないなー。さて、尾崎は点入れれるのかな。」

「次ですか。」


「そうよー?尾崎のこと見て惚れないでね?」

「大丈夫です。仁のことを見てますから。」


「すっかり、神野くんの虜ね。」


そんなことを言われると余計に意識しちゃう。

仁のことを考えてると、他のことは何も考えられなくなる。


一斗のことだって、忘れられる。


これからもっと仁を好きになりたい。

仁のことを本当に好きになれたら、もうきっと一斗は私の心の中にいない。


ううん。


もうわかってる。




私の心の中にいるのは、仁だけだって。

もっと、ずっと前から私の心の中には仁しかいなかったんだ。


カーンッ―――

「「あ、打った。」」


私と岡本先輩の声が重なる。

尾崎先輩の打ち上げた球が、外野に落ちる。


「隆也ー!走れー!」


隣でそう叫んだのはもちろん岡本先輩。


今、隆也って言った?


あ、そっか。

その方がおかしかったんだ。