岡本先輩はさっきからチラチラと何かを見ていた。
手元には小さな紙。
気になるけど、見ちゃいけないような気がした。
また仁がボールを投げる。
これもきれいにミットへ収まった。
意外にうまいじゃない。
そして、相手の1番バッターは仁に三振を取られて終わった。
「すごいじゃん、神野くん。」
「仁ってピッチャーできたんですね。」
「あら、知らなかった?今は尾崎がエースだけど神野くんも元々ピッチャーよ?」
「え!?」
仁がピッチャーだったなんて、そんなこと聞いたことがなかった。
そんな雰囲気は、いっこもなかったんだもん。
「エースを決めるのに喧嘩とかなかったんですか?」
「なかったわよ。エースに向いてるのは尾崎だったから誰も文句とか言わなかったしね。」
「仁も納得してたってことですか?」
「そうね。でも、心のどこかでは悔しかったかもしれないけどね。今の神野くん見てたら楽しそうだし。」
グラウンドを見ると1塁にランナーがいて、今はどうやら3番の人がバッターらしかった。
仁は冷静そうに、でもどこか岡本先輩が言うように楽しそうに投球していた。
一球一球が仁の気持ちを表しているように見えた。
「神野くんのこと好きでしょ、真里亜ちゃん。」
「え!?」
「自覚無いだけよ。本当はわかってるのかもしれないけど、わかってないならそろそろ気づいた方がいいわよ。」
「そんなこと言われても、私・・・。」
その時、私の目にあるものが留まった。
それは、1週間前に買ったリング。
鞄に付けてるから、いつも持ち歩いてることになる。
でもそれは特に意味があるわけではなくて、ただリングが2個あってそれで・・・。
でも、別に付けておく必要はないんだよね。
机の中にでもしまっておくか、誰かにあげちゃってもよかった。
普段アクセサリーとかするタイプでもないし、仁とお揃いなんだし。
そういえば、ここにリングが付いてることを仁は知ってるのかな。
仁はあのリングをどうしたのかな。