あれ、ってなに?


「あの投手、ばけもんか?」

「今もう9回の表だろ。」

「なのに、球速も回転もさっきより早く見えたぜ。」


そういえば、今までとは全然違う音がした。

球がグローブへ吸い込まれて気持ちのいい音が鳴った。


「俺も、もうあそこまで投げれねぇ。」

尾崎先輩がそっと言った。


これって、なんだかヤバいの?



その時、バッターの田中先輩がベンチを向いた。

みんな、その視線に気づいて田中先輩を見る。


すると、田中先輩がヘルメットに指を置いた。

「あいつ、今指何本置いた・・・?」


「俺の目が違ってなけりゃ、3だな。」

「へぇ。じゃぁ大丈夫じゃん。」

「だな。」


「え?なに?」

隣の裕樹に聞いてみた。


「真里亜知らねぇんだな。」

「何のサイン?」


「アレ、田中先輩の好きなサイン。」


好きなサイン?

でもこっちのベンチにサインを送るなんて、意味がある?


「あのサインな、口に出さないけど田中先輩の『余裕』ってサイン。」

「え?余裕?」


「そう。見てな。」


裕樹に言われたとおり、田中先輩に向き直る。

その姿は自信に満ちているようだった。


そして、ボールがピッチャーの手から放れた。


パンッ―――


「トライッ」