それから何度かママのところへ行くことがあった。
ママは順調に回復はしていったけど、私たちのことはやっぱり思い出せないみたい。
もしかしたら、このままなのかもしれないと思ったこともたくさんあった。
でも、そんなときはパパや斉藤さんに慰められたり「頑張ろう」って言われたりして私は今ここにいる。
ママのところに行きたくないと思っていた自分は、もういなくなっていた。
「ママ~。」
今日もママの所へ来た。
いつもこうやって部屋を覗くと「ママじゃないのよ」って言われるんだけど、今日はその声がしなかった。
病室には確かにママがいる。
後姿は見えるから。
でも、声が全くしない。
ママの背中がやけに、悲しかった。
病室に入ってママの隣へ行くと、ママは・・・泣いていた。
「ママ!?どうしたの?」
「・・・・・・」
ママはただ静かに涙を流すだけだった。
「ママ?」
どこか痛いのかな?
苦しいのかな?
辛いのかな?
こんな時にちょうどパパはジュースを買いに行っている。
どうしたらいいのかわからず、とにかくパパを探しに行こうと部屋を出ようとしたとき―――
パスッ―――
「え?」
ママが、ママが私の手を握った。
今までママが私に触れてくることなんてなかったのに。
「どうかしたの?どこか、痛む?」
ママはただ、首を振るだけだった。
「ママ?」