「真菜、また来るよ。今日は帰るから。」
「あら、また来てくださるの?別にいいのに。ありがとうございます。」
「真菜・・・」
パパの顔が、今にも泣いてしまいそうな顔だった。
そこで、私の我慢の限界がきてしまった。
「ママ!最低だよ!」
「え?」
「真里亜、やめなさい。」
「なんで忘れちゃったのよ!ママのバカ!ママなんかっ」
ングッ―――
私の口に当てられたのは、パパの手。
パパの大きな手が、私の口を押えてしまった。
そして、パパは私の耳元でこう言った。
「それは言ったらダメだろ。真里亜は本当にそうは思っていないだろ。後悔しないように、言ってはダメだ。」
パパの声が、私の心を静めていった。
それと同時に、私の目から大量の涙が流れ始めた。
「あら、どうしたの・・・?」
「大丈夫です。じゃぁ、僕らはこれで帰りますね。また、来ます。」
「神崎さん、本当に申し訳ありません。」
「いえ、こちらこそ。真菜のことをお願いします。」
「また、来てください。」
「はい。」
この時のパパの穏やかな顔を、私は絶対に忘れない。
「ねぇ・・・。」
私とパパが病室を後にしようとしたとき、ママが声をかけてくれた。
「なんだい?」
ママの顔が、なぜか悲しい表情に見えた。
「あの、真里亜ちゃん。」
「・・・はい?」
「また、来て、ね?」
ママのその不思議そうな微笑みと小さな声が、私の中をかきたてた。