「真里亜ちゃん?えっと、でもなんで私の所へ来てくれたのかしら?」


「ママが交通事故に遭ったって聞いたからだよ。」

「だから、私はあなたのお母さんじゃないわ。間違いよ。」


ママ、確かにママはお母さんじゃないよ。

だから、ママなんだよ。


ママは、ママしかいないんだよ。


「真菜、真里亜のことも覚えてないのか?僕のことはいいから、真里亜のことだけでも思い出してやってくれないか・・・。」


パパが悲しい顔でママに言う。

パパだって自分のことを思い出してほしいはずなのに、どうして私だけなんて意地を張って言うのよ。


ママも、苦しい顔をしている。

きっと、思い出せないんだね。


ママ、心の奥にいる私たちを思い出して。



「真菜、圭太さんと真里亜ちゃんは真菜のことが今でも好きなんじゃない?」

「圭太って、あなたのことでしょ?」


「ママ、圭太って言いうのはパパのことで」
「あなたのお父さんの名前もケイタって言うの?偶然ねっ。」

フフッと笑って言うママを見ていたら、私の目には涙すら浮かんでこなかった。

代わりに浮かんできたのは、怒り。


私の中で怒りがフツフツと湧いてきていた。

「真菜、僕は聖だって言っただろ。思い出せよ、真菜。圭太さんと真里亜ちゃんのことを。」

斉藤さんも一生懸命にママに説明してくれているのに、ママは一向に思い出してくれない。


「圭太さんのことを、真里亜ちゃんのことをあんなに大切そうに話してくれていたじゃないか。大好きだったんだろ?」


「えぇ。今でも大好きよ。圭太さん。」

「僕じゃなくて、こっちだろ?」


こんなママ、見たくなかった。

会いたくなかった。


私が望んでいたのはこんなことじゃない。

ママに、ギュッて抱きしめてもらいたいと思ってた。


ママに頭を撫でてもらいたいって思ってた。

ママに、私の名前をちゃんと目を見て言ってほしかった。


でも、今のこんなママなんて・・・嫌だ。