「無理かもしれない。でも、できると思ってる。」
「なにが?」
「今度の試合に勝って、勝ち進んで、絶対甲子園に行く。これ、俺の昔からの夢だからさっ」
「甲子園・・・。」
「みんなで頑張ればぜってぇ行けるだろ!そう信じて絶対行こうな、甲子園!」
そう言う仁の顔は太陽みたいに輝いていた。
「絶対行けるよ。応援してるから!」
「おう。今のこの話はとりあえず俺らの中での話。まぁ、もう大体のやつは考えてると思うけどな。」
そうかもしれない。
でも、仁はすごいよ。
ちゃんと目標に向かって進んでたんだ。
家族のことを抱えながら、自分なりに進んでたんだ。
私とは全然違うな。
うん、すごいよ、仁。
だから一緒に、皆で一緒に行こう、甲子園!
「俺が野球がすげぇ好きな理由の一つでもある。」
「だね。そりゃ、好きになるよ。っていうか、好きにならなきゃいけないよね。」
「好きなことを好きって言えるのっていいな。」
好き、か。
私はいつか言えるのかな。
自分の気持ちに正直に。
「じゃぁ、遅くまでお邪魔しました。」
「ううん。またいつでも来て。」
「おう。また来る。じゃぁ」
「「おやすみ」」
玄関の扉が閉まる。
最後まで仁は笑っていた。
きっと、うまくいくよ。
仁の家族も、笑いあえるよ。