「すごいね。私にはできないや。」
私もお母さんのことは嫌いだったけど家を出ようなんて思わなかった。
やっぱり男の子はそこが違うのかな。
でも、私よりも辛い思いをしてたからってことも考えられるよね。
どうだったんだろう。
「で?家族ってどんな感じ?」
「あ、そこに戻るんだ。」
「そりゃそうだろ。もとはこの話だったしな。」
真剣に聞く仁が少しだけおもしろかった。
おもしろいって言ったらきっと怒るだろうけど。
でも、仁は必死なんだと思えた。
きっと何かを掴もうとしてるんだって。
そんな必死な仁が、おもしろくて可愛いような気がする。
「仁、私も仁と同じだったでしょ?」
「ん?なにが?」
「覚えてないの!?だから、私のお母さんも本当のママじゃないって。」
「あ!初めて会ったときに言ってたな。」
「そう。だから、仁の気持ちはわかるよ?」
「おう・・・。」
「今の私の家族はね・・・」
―――近くにいて笑いあえる、楽しくて幸せなものなの。
「でも、俺は親父とまともに会話もしたことねぇんだぞ?」
「仁から話しかけるっていう、少しの勇気を持てばいいんだよ。」
「んなこと・・・」
「できるよ。簡単なことから始めるの。」
「簡単なこと?」
「そう。家に戻れば、家族が待ってる。だから言うでしょ?」
「なにを?」
「ただいま、って。それでいいんじゃない?私もそうだったから。」
私があの日、仁の家に泊まって帰ってきた日。
この言葉ですべてが始まったんだから。