そして、この和気靄々とした雰囲気を快く思わない者もいた。
アデルにとっては忌々しき騎士団長である。

「これはこれはアデル隊長。随分と素敵な贈り物ではないか」

ねっとりとした声が耳に届き、アデルは部下に肩を竦めて見せると微笑を浮かべて振り向いた。
アデルの腕の中の薔薇の花束を面白くなさそうにじろじろ見つめる騎士団長へ、アデルは深々と頭を下げる。

「生憎贈りたい相手が近くにはいないもので。これは私が頂いたものなのですよ」

団長の頬が優越感でぴくりと動くのを、アデルは視線だけで確認した。
嘘を吐く割りには嘘が下手な団長に、涙が出そうになる。

「真実の愛をそんなに沢山押しつけられるとは。流石はシェーダで一番の色男殿だな」

団長の嫌味にいち早く反応を見せたのはアデルの部下たちである。
不快感を隠すことなく眉をしかめたが、アデルがにこにこと笑みを浮かべているため、口は閉じるように努めている。