大人気ないとは思いつつも、アデルは意地の悪い笑みを浮かべ、部下の顎を持ち上げると金色の瞳で真っ直ぐに射ぬいた。
アデルが男だとわかっていても目が離せなくなる端正な顔立ちに、部下は口を開けたまま惚けた視線を向ける。

「悪いが、ルイは俺のだ」

アデルの一言で、一斉に周囲は色めき立った。
恋人としてか師匠としてか。
そんなことは彼らにとってどうでもいいことだった。
中には口笛を吹いて場を盛り上げる者もいた。

頬を赤くした部下の顎から手を離すと、アデルは抱えた花束の中から薔薇の花を一輪抜き取った。
そして、そっと男の胸元に挿してやった。
下級貴族の四男である彼は黙ってしゃんと立っていれば品のある顔立ちをしているが、惚けた今はやや間抜け面である。

「とりあえず、これが似合うようにだらしない口をちゃんと閉めろ。そうすれば、パーティーでも引く手あまただろうに」

アデルに軽く額を叩かれ、男は何度かまばたきをしてアデルを見上げる。
薔薇の花束を抱えて絵になるアデルには適わないと、改めて思い知らされた。

だが、そんな表面的なものではなく、内面的にもっと適わぬ部分が多いことも、よくわかっていた。