真っ赤な薔薇の花束を抱えて城に戻れば、アデルを出迎えたのは好意と悪意が量的には丁度半分ずつであった。

好意の筆頭は、城内の庭で鍛練中だったアデルの部下たちだ。

「隊長、凄い花束ですね!贈り物ですか?」

城内で早速彼は部下たちに捕まり、好奇心旺盛な視線に囲まれる。
アデルの浮名を知らないわけがない部下たちだったが、アデルを妬むでもなくただ面白がっている。
女性関係の噂は多いが、それ以上に頼りになり実力もあるため、嫉妬心は尊敬へと形を変えている。
軽い性格がまたアデルをとっつきやすい人間に見せているようでもあった。

「逆だ、逆。贈られたんだよ」

「女から薔薇の花束ですか!やりますね!」

「というか、罪な男ですよね」

わいわいと騒ぐ部下たちを微笑ましく思い、アデルは苦笑した。
その中の一人が、思い出したように声を上げる。
志願兵出の一人で、アデルよりも一、二歳年下であった。

「女といえば、隊長また新しい女作ったんですって?」

「ん?」

「あ、俺も聞いたことありますよ!」

部下の一言がきっかけとなり、他の者たちも沸き上がった。

不安定な情勢の中、少しでも明るい話題があれば縋り付くように盛り上がりたいという気持ちは、アデルにもわからなくはなかった。