鋭い紅の瞳を真っ向から迎え撃ち、団長は不敵な笑みを浮かべた。
ルイという人質を捧げたジョシュア。
団長はすでに彼を疑うことを考えていなかった。
ジョシュアの上司は、あのペテン師であるというのに。

「私の言う通りに動いてもらえるのなら、貴公を同じ船にご招待しよう」

「……その船の名は?」

妖しく光る紅い瞳に、飲み込まれていることなど気付かず団長は口角を吊り上げた。

「豪華客船デモンド号、だ」

「ほぅ……」

わざとらしく息を吐いたジョシュアのことを気にせず団長は笑みを深めた。
団長とデモンドの繋がりを感付かれていることは想定内だ。

(難破寸前の海賊船の方がお似合いでしょう)

ジョシュアの笑顔の裏側に秘められた悪態に、団長は気付かない。

「デモンドですか。国を売ってまで貴方が得られるものは何なのです?」

団長は黙って宙を仰ぐと、どう答えようかと無い知恵を絞らせる。
下手に誤魔化そうとすればジョシュアはそれに気付き、力を貸すことを拒むだろう。
正直に話すには……愚かで身勝手過ぎた。

今よりも高い役職を与える。

ただ、より高い地位を得ようというだけの気持ちだった。
自己満足で国を売るということが恥ずべき行為であることくらい、承知だった。