「我々は不本意ながらもノルダ砦を手放しました」

紅い瞳が探るように団長に向けられる。
その瞳の意味を察して団長は頷いた。

ノルダ砦を手放した時の指揮官はジョシュアであった。
アデルの指示がなかったということになってしまえば、ジョシュアの立場は不安定なものとなるだろう。
それを避けるため、ジョシュアは団長に取り入った。
これからは団長の部下として力を貸す、と。
そしてアデルを裏切る証に、ルイを差し出した。

そういったシナリオである。

「安心しろ、ジョシュア卿。今はノルダ砦の責任について論じるよりも、次を考えるべきだと進言しておいた」

「恐れ入ります」

なんとも頭の悪い文句だろうと心で悪態を付き、ジョシュアは感謝など欠片もしていない頭を下げた。
それに応じるエルクもエルクだ。

(何があったのでしょうか……?)

ジョシュアが思うに、近ごろのエルクは聡明さを欠いている。
それに気付いたからこそ、アデルはあえてエルクに背くことを決めたのだ。
そしてジョシュアは、アデルの副官。
もちろんエルクに対する忠義もあるが、それ以上にアデルの才覚に惚れているのだ。