殺意に近い悪意を感じ、ルイは全身の毛が逆立つ思いだった。
これ程の悪意を抱いた人間がエルクの傍で、国政に関して重要な役に就いている。
その事実に、愕然とした。

だが、ルイはすぐに自身の気持ちを立て直す。
油断していたら、負けてしまいそうだから。

「……えぇ。アデルさんとの夜は幸せそのものよ。貴方なんかとは大違い!」

「威勢の良さがいつまで続くか……」

団長は空いた手でルイの金糸の髪を掴み上げた。
痛みに眉をしかめながらも、空色の瞳は反抗の火を絶やさない。

「貴方なんかが私を喜ばせるなんて、出来るわけないわ」

団長の自尊心とアデルへの敵意を同時に刺激した。
歯が軋む音が聞こえそうな程に奥歯を噛み、団長はルイの髪を更に強く引っ張った。

「馬鹿な女だ……。黙っていれば加減をしてやったのに」

「……」

「アデルも、馬鹿な男だ。あんな王なぞに縋りついて女を奪われる」

奪われた覚えはない。
ルイは団長を睨み続ける。

「どうせこの国は終わるんだ。俺とデモンドの手でなぁ……!」

ゆるゆるとルイの目が開かれていく。
本当にこの男は国を裏切りデモンドと通じているのだ。

その事実に胸を痛めつつも、ルイは自身の役割を再確認した。
全てを耐える覚悟を、固めた。