言葉にしていいものか迷いつつ、ノルンは吐息のような問い掛けを投げた。

「……騎士団長は好色家よ。知らないとは言わせないわ」

「……知らないわけないだろう。あれは若くて見た目がよければ女でも男でも見境がないミミズのような男だ」

アデルの溜め息には、嫌悪の色がはっきりと出ていた。
貴族であり騎士団長という高い役職を得ている彼は、しばしばその立場を利用して気に入った女を抱くことがあった。
遠征で訪れた村で、婚約者を持つ村娘を無理矢理犯し妊娠させたこともあれば、自分より立場の弱い貴族の若い娘を妾にと強引に奪ったこともあった。
本妻はすでに死去しており、団長の色事を咎められる者はいない。
エルクも騎士団の品位を貶める恐れがあると忠告をしてきたが、若き王を軽んじる節のある団長には聞き入れられなかった。

そして団長の色欲は、女だけではなく男にでも及ぶ。
長期任務で女性のいない環境になったとき、団長は部下の中で若く美しい者を自分の元へ呼ぶのだ。
騎士たちにとって団長の命令に歯向かうことは、罰せられる正当な理由となる。
それがいかに不条理であっても、遠征の場での最高権力は彼にあるのだ。