(……引き受けることくらい、わかっていた)

アデルは何も言わずに頭を抱え、自身の髪を両手で掴んだ。
時間は長くなかったが、ずっとルイを見てきたのだ。
どのような策であっても、どれだけ危険な役目であっても、ルイが頷くことはわかっていた。
わかっていて、口にした。

生命の危険は、まだない。
アデルの予想では、騎士団長は当分の間、アデルにルイの存在を告げることはしない。
人質を使うのは、シェーダ国に危機が訪れたときか、ノルダ砦のような無血開場ではなく、もっと血にまみれた戦場を作り出したいときだろう。
もしくは、アデルが裏で何やら動き回っていることを知って、その動きを牽制しようとする時か。
どれだとしても、一日二日の話ではない。

その間は、ルイの生命の安全は保障される。
だが、心配なのは生命ではなく、心の傷であった。

アデルを見つめていたノルンは、右手で左手を包み込むと、胸へと押し当てた。
彼女が不安を感じているものは、アデルが思うものと同じらしい。