後悔はしていない。
そう言ったら嘘になる。
アデルは自らの手で、大切にしたいと願った女を危険の穴へと突き落としたのだ。

(少しでも不安を顔に出せばよかったものを……)

作戦を告げたときのルイの揺るがない瞳が、アデルの目蓋に焼き付いて離れない。

騎士団長とデモンド国の繋がりを証明する証拠が欲しい。
そのためには、騎士団長に接近する必要がある。
その役目は、ジョシュアに与えられた。
アデルと仲違いしたふりをして、騎士団長に近づくのだ。
アデルの力を弱め、利用したい騎士団長としては元部下のジョシュアを下に付けることは喜ばしいことだろう。

だが、ジョシュアは油断出来る相手ではない。
騎士団長が、ジョシュアはアデルの指示の元で近づいたのだと感付いてしまえば意味はない。

騎士団長を完全に油断させ、舞い上がらせるためには二人の仲違いなどでは弱過ぎる。
だからアデルは、ルイを使った。

二人が恋仲であることを知る者は少なくても、師弟関係であることは広く知られている。
それも、アデルが特に可愛がっているという話と共にだ。