ジョシュアがここまではっきりと苛立ちを露わにしているのは、初めてであった。
それ程までに彼はアデルに怒りを感じているのだ。
信頼していた隊長に裏切られた。
言葉にすれば些細なものだが、ジョシュアがアデルに向ける信頼は大きい。
比例して、彼の心に与えるダメージも大きくなる。
「こんなにも無能だったとはな……」
失望と侮蔑の籠められたアデルのため息が、静まり返った広間に響く。
ジョシュアの雪のような頬が、赤く染まる。
その感情は、激しい怒り。
「もうよい、下がれ!」
ジョシュアの怒りが破裂する寸前で、両者の間を割った冷たいエルクの命令。
互いに責任を押し付け合う醜い姿など、見たくはなかったのだ。
エルクが望むものは、メルディに対する優勢の報。
言い訳は彼の耳に入る価値などない。