ジョシュアは横目でアデルを睨み付けると、忌々しげにエルクへと告げる。
ここがエルクの前でなければ、彼は盛大な舌打ちを交えるのだろうと誰もが想像した。

「先程申し上げました通り、私は指揮官の指示の元、ノルダ砦を明け渡したのです!そこには彼の策があるのだと思っていたのです」

ノルダ砦を奪還されたとき、アデルは王都におり、実質的なトップはジョシュアであった。
もちろん、砦奪還の責任は負わねばならぬだろう。
しかし、納得出来ないとジョシュアは叫ぶ。

紅の瞳に怒りを浮かべたジョシュアに対し、アデルの表情は冷ややかであった。

「私は死守しろと命じました。自身の実力不足を私の名で補わないでいただきたい」

エルクを見上げる金色の瞳は、ぞっとする程に美しい。
紅い瞳がアデルを睨む。

両者が長く同じ部隊で隊長と副隊長を務めていたことは誰もが知るところである。
仲睦まじいとまではいかずとも親しげな二人を知っている周囲の者は、両者の間に流れる殺気に近い怒りを感じて下手に口を挟むことが出来なくなっていた。