イアンは愚かしいほどに真っ直ぐな瞳を村長に向ける。
もしもライラが村長であれば、イアンを騙して領主に差出し村の安定を図ることを考えるだろう。

(……いや、だが出来ないな)

イアンの真っ直ぐさを目の当たりにすると、自身の浅はかさが浮き彫りになるようで胸が痛む。
ライラのなけなしの良心でも痛むのだ。
この村長なら、尚更だろう。

彼は険しい顔で俯いていた。
おそらくライラと同じ考えを浮かべたはずだ。
そして、愚かで誠実なイアンを前に胸を痛めているのだろう。

(この男はきっと力を貸す)

悩む姿を見て、ライラは確信した。
忙しなく動く指先が、協力したがっているようだった。

「俺たちは戦わずにこの戦を止めたいと思っている」

決めかねている背中を押すようなライラの声。
珍しく笑みを浮かべた強気な態度。
それは自信に満ちた誘い。

「平和的解決のため、エルク王にお会いしたい。そのために、力を貸してほしい」

村長は一度目を伏せてから、ゆっくりと三人を見上げた。
強がりに近い笑みが、口元に浮かんでいた。