「騙そうとしていたわけではないんです」

重い表情と沈んだ声から、その言葉が真実であることはイアンたちに伝わっていた。

「……私の遠い親戚に、情報収集を得意とする貴族がおりまして。そこから色々とお話を伺っているのですよ。それだけのことです」

戦争について知らないふりをしたのは、実際に民たちには戦争の現状などは伝えられていなかったからだ。
村長は、周りの知識レベルに合わせていただけだった。

恩人を騙していたことには後ろめたさを感じるが、村長にはライラがそのようなことを尋ねる理由がわからなかった。
だから彼は警戒心を強め、ライラを見上げる。

「僕らは、メルディ軍なんです」

もっと辛辣な言葉を並べてやろうと口を開いていたライラは、完全にイアンに出鼻を挫かれた。
空いたままの口を不満げに閉じると、恨めしげにイアンを睨む。
対するイアンは微笑で受け流していた。

この発言に驚かなかったのは発言者本人と、不遜な若い軍師だけであり、彼らよりずっと年上な両者はそれぞれ逆の驚きを以てイアンを見つめた。