それがアデルの描いた大雑把なストーリーであり、他国まで巻き込んだ大規模な物語を無事完結させるためには、細かい段落ごとにも気を払わねばならなかった。

「そのためにも必ず証拠は掴まねばならない」

そこで一度アデルは言葉を止め、ルイの空色をじっと見つめた。
そして目を伏せると、覚悟を決めて口を開いたのだ。

「それに、ただ俺がエルク様に背いただけでは主君を他国に売ろうとしているとみなされてもおかしくはない」

いくら市民からアデルへの信頼が高いからといって、誰もが誰も、アデルを信じるわけがない。
そのため、エルクに背くにも相応の理由が必要になるのだ。
市民を納得させ得るだけの理由が。

「こういうのは理屈よりも感情に訴えたほうがわかりやすいし、同情や共感を得やすいんだ」

ルイ、とアデルが名を呼んだ。
呼び慣れた名のはずなのに、アデルはその名が浮かんで消えるような感覚だった。
アデルの感情というものは、理性とははっきりと線引きされているらしい。

そうでなければ、このようなこと、言えるわけがない。

「ルイ、お前には俺の人質となってもらいたい」

その提案には誰もが息を呑んだ。
ただ一人、ルイだけが動揺の色を表に出すことなく、アデルの言葉を受けとめていた。