本日見てきた傷の中では最も浅い切り傷。
痛みもなく気にするようなものじゃないと笑っていたら、ユリアが怒気を露わにカトルの前に立ちふさがった。
「消毒しましょう」
「うーん、でも浅い傷だし……」
「……衛生兵が怪我人を目の前に放っておけるわけないでしょう?」
カトルは、それ以上何も言えなかった。
自分を見上げるユリアの顔が、痛みに歪んでいたから。
助けられない命は一つ二つではなかった。
手当てを手伝っていた騎士たちよりも、それを専門にしている近衛兵たちのほうが、無力感に捕われていただろう。
小さな傷でも、見逃せなかった。
それが罪滅ぼしにはならないとわかっていながらも、ユリアは責め立てられるような気持ちでカトルを見つめた。
「じゃあ、お願い」
「はい」
人の痛みに敏感な子だと、カトルは思った。
それは人間的には素晴らしい長所となりえるだろう。
(だけどこれからは……戦場の中では……)
この先、苦しみ続けるだろう彼女の未来を思うと、胸が痛まずにはいられなかった。