イアンが騒動を見過ごして進むことが出来ない人物であることは、メルディの兵ならよく知っている。
それがイアンの良さでもあるからだ。

「……エルクは、国を潰す気なのだろうか……」

税を引き上げ、民の生活を苦しめ、そこまでして得られるものは、何だ?
イアンは両手で頭を抱えると、弱々しく肩を震わせた。

「僕の決断は、ここまでエルクを苦しめたのか……?」

ライラの想像通り、ミーナとの婚約が引き金になっているのだとしたら。
考えるだけで、身体が震えた。
エルクを苦しめ、シェーダ国を傾けてまで求めていいものだったのだろうか。

「僕は、僕の幸せのために……」

「それは違う」

不安に呑まれ掛けた王は、冷たくも優しい声に顔を上げた。
仏頂面は相変わらずで。
濁ることのない深緑の瞳が、イアンを射ぬいた。