視線を動かし部屋を観察するのは、ルイにとっては気を散らすための行為でしかなかったかもしれない。
夜に、恋人と二人きり。
もう、その意味がわからないルイではないのだ。
部屋に入ったアデルは窓へと近付き、僅かにカーテンを引いた。
窓を叩く雨音が部屋の中を満たし、アデルは分厚い灰色の雲へと微笑を浮かべた。
「よかったな、雨が降る前に到着できて」
「はい。ジョシュアさんが急いでくれましたから」
そうか、とアデルはやや眉をしかめて頷いた。
カーテンを閉めて窓から離れると、入り口で身体を堅くしているルイへ、柔らかく微笑んだ。
「そんなところに立っていないで、俺の傍に来い」
片手を差出し、ダンスを申し込むように優雅な動作で、アデルはルイを呼んだ。
だが、ルイは扉の傍から離れようとしない。
アデルの口から、苦笑が零れる。
(何かされると思っているのか)
正直な気持ちとしては、手を出したい。
久しぶりに恋人と会い、部屋で二人きり。
抱き締めたいし、キスもしたい。
それ以上だって、もちろんしたい。
だが、アデルはわざわざルイがやってきたのには何か理由があることをわかっていた。
それを聞くまでは、はぐらすように手を出すことはしないと決めていた。