ノルンと別れ、彼は城の敷地内に建てられた自身の邸宅へと足を向けた。
空には分厚い曇天が油絵のように伸ばされており、いつ雨が降ってもおかしくはなかった。

アデルが王都に戻ってから、数日が過ぎた。
彼の計算通りに事が進んでいれば、すでにノルダ砦はメルディ軍に奪還され、ジョシュアが討伐隊を引きつれ帰ってきているところだろう。
早ければ、明日にはこちらへ到着するだろうか。

「雨が降らなければいいが……」

届かないとわかっていながら、アデルは副官へと微笑を浮かべた。
この調子なら、新たな指揮官を選出する前にメルディ軍ノルダ砦奪還の報が届くだろう。

それでも、止まらないとしたら。

(何としてでも、エルク様の身はお守りする……!)

アデルは覚悟を決める。
いや、覚悟自体はノルダ砦を攻めた時点から出来ていた。
ただ、心の奥底に潜む本音がその決意から目を逸らしたがっていたのだ。

アデルは空を見上げたまま、足を止める。
光を遮断し世界を暗闇で包み込もうとする曇天は、まさしくアデルが敵対すべき相手であるようで、不愉快になった。