アデルを信じる民は、多い。
そんな彼が名高い前王の弓を使っているとなれば、彼は前王に認められたと言葉にはせずに、伝えるようなものである。

元からの人気と、前王の人気。
両方を一つにしたアデルが今、もしも反乱を企てようものなら、多くの民が味方に付くだろう。
そして、そのことをアデルはしっかりと自覚していた。

「貴方は今、エルク様を良いように操りたい人間にとって厄介でしかないのよ。エルク様の傍では忠言を繰り返す。でも、下手に捕らえれば民たちの反感を買うわ」

ノルンは笑顔を取り払い、真剣な瞳をアデルに向けた。

「上としては、あまりアデルに戦果を上げてほしくない。けれど、現在のシェーダ国の財政も食料も状況は厳しい。だから、貴方を使わざるをえない。そして貴方が戦えば、貴方を信じる民たちの反抗心を少しは抑えることが出来る」

どれだけ厄介な立ち位置にいるのか、理解した?
首を傾げながら問うノルンに頷いて、アデルは背もたれに身体を預けた。

彼はそんなこと、全部わかっていたのだ。