「待たせてしまったか」

見渡したところ、店内にいるのは二、三人。
どれも、カウンター席で店主と何やら話をしている。
その中で一人だけ離れて座っていたノルンに、アデルは後ろからそっと声を掛ける。

振り返ったノルンはアデルを見上げると、肩を竦めた。

「思ったよりは早かったわ」

「当たり前だ。俺が大人しくしていたからな」

下手に口出しをすれば、軽くもう一時間はノルンを待たせることとなっただろう。
アデルはノルンの目の前の席に座ると、店員にベーグルサンドと紅茶を注文した。

「朝食みたいね」

「腹が減ったんだよ。ここはいいな。酒場だが、軽食が充実している」

「当たり前よ。私たちの息が掛かった店だもの」

ふふ、とノルンは得意げに笑う。
アデルも苦笑混じりに微笑んだ。

彼女たちの情報源の中には、こうして抱えた店からのものも多く、有力なものも店から得る場合が多い。
そして、この店の中なら、どのような話をしても周りに聞かれる心配はない。