こんなことなら、二ヵ月前に新人兵育成に力を入れず、変わらずにエルクの傍に居続けるべきだった。
小さな選択ミスが積もって狂った歯車。

「そうですな!それならば食料の問題もなくなります!」

嬉々とした顔で手を叩き、騎士団長は笑顔を浮かべた。
ノルンからの情報で、騎士団長が戦争賛成派のリーダー格であり、内密にエルクに接近してエルクを唆していると聞いている。
エルクの言葉に、騎士団長が喜ぶのは最もであった。

(駄目か……)

ならば、次の手を打たなければならない。
布石は、打っている。
だが、アデルの計画に必要不可欠なものがある。
これは、そう簡単に得られるものではない。

(メルディ軍の力と、俺自身の力……)

出来ることなら、やりたくなかった。
シェーダ軍が手を引く形で、穏便にすませたかったのだ。

「アデル隊長には再びノルダ砦へと向かってもらう。ただし、指揮官は新たにこちらから任命させてもらう」

自分達の息の掛かった好戦的な人物を指揮官に置くだろう。
頭を下げて了承の意を示しながら、アデルは再び彼らの話を聞き流し、思考の中へと逃げ込んだ。

再び赴く命が下る頃には、すでにノルダ砦は奪還されているだろう。