これが、アデルの一つ目の策。
必要以上に食料供給を求め、現在のシェーダ国の備蓄では戦が出来ないと進言し、エルクにこれ以上の侵攻を断念させる計画だった。
アデルが知っているエルクならば、この戦がどれほど無益か理解し、止めるはず。
そう信じていた。

だが、アデルは失念していた。
そもそも普段のエルクならば、このような戦を始めないのだ。

歯車が狂い初めていたことに、気付けずにいた。
それが、アデルの失敗だ。

「足りないのなら、現地で調達すればいい」

「何を……!?」

「メルディ国の方が土壌は豊かだ。さぞかし、食料を備蓄しているだろうな」

そんなことをすればメルディ国民の反感は増大するだろう。
それを指摘したばかりだというのに、冷たく笑うエルクにアデルは背筋を凍らせた。

話さえ出来れば。
そんな甘い考えを持っていた自分が愚かしい。

すでに事態は転がり始めてしまったのだ。
止めるなら、戦が始める前に動かねばならなかった。
今更気付いても、どうなもならない。

アデルは俯き、歯を食い縛った。
じんわりと口の中に血の味が広がる。
こんなにも、自分の迂闊さを呪ったのは初めてだ。