王座の前で膝を付き頭を下げながら、アデルはうんざりとした気分で頭から振る怒声を聞き流していた。
怒声を上げているのは騎士団長であり、傍らに控える宰相や大臣も苦い顔でアデルを見下ろしている。
そして、離れた王座では不機嫌を身体全身で表現しているかのようなエルクが座っていた。
数ヵ月前よりもずっと濃くなった眉間のしわと、輝きのくすんだ黒の瞳。
それはアデルがノルダ砦制圧に赴いた短期間で大きく悪化しているように見えた。

「大量の捕虜のせいで食料不足とはどういうことだ」

「今年の収穫は豊作には程遠い。国内の内情を把握していないわけではないだろう」

「シェーダ国の内政を破綻させる気か」

(わかっているなら、出兵などさせるなよ)

無責任な批判に呆れながら、アデルは俯いて欠伸を噛み殺す。

「大体、捕虜に対する待遇が良すぎではないか!?」

「少し手を出そうとした程度で死罪とは厳しすぎる」

(最終的にメルディを統治することを考えているなら、民からの反感を持たせないようにすべきだろうに)

ただ戦争を起こし勝てばいいとしか考えていない無能どもに、怒りを通り越して呆れしか感じない。