前に、アデルは足元に落とした弓を手で拾わずに足で宙へと浮かせて拾ったことがあった。
弧を描いた弓の形を利用し、てこの原理の感覚で足だけを使い弓を持ち上げたのだ。
シェーダの弓兵が皆出来るかはわからないが、警戒しておくにこしたことはない。
そして、矢筒にはアデルがよく短刀や暗器を隠すので、手元から離しておきたい。

青年はどこか楽しそうに矢筒を下ろすと、手にしていた弓を離れた茂みへと投げ込んだ。

「警戒しなくても、アデルのような真似なんて、普通出来ませんよ?」

ルイは無言で自身の弓を足元へ転がすと、以前アデルが見せたように、片足で弓の端を踏み付け、宙へと舞い上がらせた。

「私は、出来ましたから」

信用は出来ない。
言外に隠された意味を感じ、青年は両手を挙げて肩を竦めた。
その青年の顔には、見覚えがある。
いつもではないが、何度かアデルと一緒にいる姿をルイは見たことがあった。
直接話したことはないが、アデルの知り合いであることは確かである。

「自己紹介が遅れましたね。私はジョシュア・ヒューバード。ノルダ砦討伐部隊司令官補佐で、アデルの小隊の副隊長です」

以後、お見知り置きを。
そう言って優雅に頭を下げる姿は、流石貴族。
型に嵌められているかの如く、見栄えのいいものであった。