大切なことほど、言わない人だから。

アデルはきっと、他人を信用できないから一人でやるんだとでも言うだろう。
だが、本当は違う。
違うことを、ルイは知っている。

(あの人は、他人を巻き込むことをしたくないだけ)

自分の策に乗せて他人を動かすことと、自分に協力させて他人に動いてもらうことは違う。
前者は受動的であり、後者は能動的なのだ。
もちろん、その人に掛かる責任というものも変わってくるのだ。

「アデルさんは誰よりも臆病なのかもしれません」

「臆病?アデルが?」

背負うからには責任を負う。
だが、自分のせいで命を賭けるような真似はしてほしくない。
それは、アデルが臆病だから。

頷いて、ルイは山中へと続く山道を見上げた。
登山者を飲み込むような暗い道。
風に揺れる木々のさえずりは、山に挑む者を嘲笑うように不気味に響く。
まるでこれからの戦いのように先の見えない山道に、ルイは拳を握り締めた。