あたしはぐるりと目を回すと、自己ベストの低い声で答えた。まず、入口の男をさす。

「鬼支部長、稲葉さん」

 そして隣に立つ男もさす。

「元彼の石原さん」

 そしてゆっくりと立ち上がった。鞄を持つ。光からコートを奪い取る。一瞬よろけたけど何とか踏ん張って、店の夫婦に微笑んで見せた。

「ご馳走様でした」

「・・・あ、はいよ、ありがとね。気をつけてよ、帰り!」

 おばさんがハッとした顔であたしに返す。はーい、と手を振って転ばないようにしながら店を出た。

 後ろからよく判らないけどとりあえず、と男二人も出てくる。

「すみません、お邪魔だったようで・・・」

 稲葉さんが光に謝っているのが聞こえた。明るくて通る声は聞きたくないのに耳の中に勝手に入ってくる。

 あたしは折角の酔いが結構な勢いで醒めていくのを感じていた。この冷たい冬の夜の風と雪と、後ろにいる男二人のせいで。

「あ、いえ。一緒に飲んでたわけではないんです。入って行ったら玉が――――彼女が、ほとんど酔いつぶれていたので声をかけただけで・・・」

 光が言うのも聞いてしまった。・・・そうだったのか。同じ町に居る割には偶然でも会わないものだなあと思っていたけど、会いたくない時にはこうして引き合わせるんだな、神様はやっぱり意地悪だ。