「あら、来たのね」 私に気づいた母親が声をかけてきた。 「お父さんは?」 「今中で寝てるわ。急に血圧上がったみたいでね。もう大丈夫よ」 心配げな私に優しく微笑みかけてくれる母親。 そして私の一歩後ろに立つ春樹さんに目をやった。 「貴方が例の…」 そう言うと、 春樹さんは眼鏡と帽子を取って深々と頭を下げた。 「初めまして、橘春樹です。いつも彩さんにはお世話になっています」