鼓動が煩い。
静かな潮騒が聞こえるだけで、あとはあたしの心臓の早鐘だけが強く打っている。
顔の周りが火照ってきているのが分かる。
その瞬間だけ、時間が短くなっていた気がした。
「あたしで……いいの?」
辛うじて絞り出した言葉がそれだった。
それが精いっぱいだった。
自分のことを好きだと言われたのも初めてだったし、どうしたらいいのかもよく分からない。
好きになったことはあるけど、好きになられたことなんてなかったから。
「うん。紗雪がいい。一緒にいてくれると、すごい嬉しい」
「……ありがと。嬉しい。あたしも……好きだよ」
少し俯き加減で応えた。再び視線を上げると、司は笑ってくれていた。
「こちらこそ、ありがとうね」
頭を撫でてくれ、ゆっくりと抱き寄せられた。
背中に司の手が回っている。
少し驚いたけど、あたしも応えるように司の背中に手を回した。
司の香りに包まれる。
それが心地良くて、目を閉じて司の温もりを感じた。
不思議と智也のことは思い出さなかった。
それよりも司の周りの空気が本当に心地良かった。
むしろ、司のことの方がすでにあたしの中で大きくなっていたのかもしれない。
司が好きだ。
「これから、よろしくね」
耳元で司が囁く。胸の中であたしは頷いた。
後ろに回された手で頭を撫でられることが落ち着く。
自然と笑みがこぼれた。
この時間がずっと続けばいい。
同じところでぐるぐると回っていてくれればいい。
そう思えるひと時だった。