アイスコーヒーを届けてくれたマスターが、静かにドアを閉めて出て行く様子をじっと見送った。



「では始めさせて頂きます。ご依頼内容の方は…。」



俺が話し始めた途端、忘れていた何かに気付いた男性は、胸ポケットやパンツのポケットをまさぐり始めた。



思い出したように顔を輝かせた男性は、白い皺の入った黒い革の鞄を抱え、鞄とお揃いの名刺入れの中から、一枚の名刺を差し出してくる。



名詞にはシンプルな明朝体で、一番上に[宇佐見義一後援会事務所]と書かれていて、中頃には書生として小関光晴の名前と、一番下に後援会事務所の電話番号が書かれている。



目の前に座っている男性は、俺の脳内で営業マンから書生へと肩書きの書き換えられた。