コンコン。



ドアを二回ノックする音が室内に木霊し、俺は迷彩のパンツからタバコを取り出して火を付けた。



開かれたドアから顔を覗かせたのは、山羊のような白髭を蓄えた、[トレイン]のマスターの見慣れた顔。



ドアを開けた瞬間に、熱を帯びた風に乗って漂ってくる、厳選した中から焙煎されたコーヒー豆の匂い。



鼻先を擽るような匂いに気を取られていると、マスターの背後で揺れている人影に、瞳の端が反応を示した。



「あの、此方はもう営業中でしょうか?」