「由貴先輩」
「なに?」
「今、化学室に誰もいないんです。」
「?」
「準備室にも誰もいないんですよ。」
恐らく川瀬の待ち人とは志原の事だ。
腕の中の先輩は不思議そうに俺を見ている。
「俺と、楽しいことしませんか?」
「……~~~!」
意図を理解した先輩は、またみるみる顔が赤くなる。
正直な人だなぁ。
「嫌ならいいですけど?」
「い、嫌じゃない…」
と顔を上げた先輩に口づける。
深い深い、呼吸までもを奪うキス。
「…ん……み、のる…く…」
「根を上げるには、まだ早いですよ。」
力の抜けた先輩の身体を支えて、化学室へと移動する。
中に入り、後ろ手で鍵をかけた。
「やはりここは密室がいいですよね。」
「……稔くんは時々高校生じゃないみたいだよ。」
「前にも言われた気がします。」
「前にも言った気がする。」
微笑む先輩に覆い被さる。
「稔くん、」
「はい」
「――大好きだよ。」
優しい笑顔とまっすぐな瞳。
「あ、稔くん顔赤いよ。」
「~~~先輩がいきなり、そういうことを言うからですよ。」
思わず口元を手で覆う。
「照れる稔くんって、なんか可愛い。」
「…どこがですか。先輩の方がよっぽど可愛いですよ。」
先輩のネクタイに手をかけて、そう言えばと思い出した。
「由貴先輩、」
「…ん?」
「携帯番号教えてくれますか?」