化学室のドアを開けると宮塚が一人で実験の準備をしていた。
いつも一番乗りの先輩の姿はない。
珍しいな………。
「うっす」
相変わらず鋭い目が挨拶をしてきた。
「早いな。俺も今日は早く来たつもりだったんだけど」
「あー…俺、授業出てないんだよねぇ。」
さらっと宮塚は言った。
「授業出ないで部活は出るのか?」
「うん。」
「………そんなにこの部活が好きなわけ?」
「部活が好きって言うか……まぁ、うん。」
すごく微妙の言い回しだ。
先輩もいないし、ちょうどいい。
ハッキリさせておくか。
「宮塚、お前」
「んー?」
「佐崎先輩のこと好きだったりしないよな?」
「は?」
瞬間、宮塚は怪訝な顔をして、そして―――
「ふっ…ははははは」
笑い始めた。
「……おい」
「あー…悪ぃ悪ぃ。俺が?先輩を?ないない。それはないから。」
宮塚はまだ笑っている。
「もしかして俺を睨んでた理由って、それ?」
「………。」
「マジ安心してよ。本当にないからさ。」
この様子だと、本当に勘違いだったらしい。
「…悪かった。」
「別にいーよ。あ、じゃあさ稔って呼んでいい?」
「は?」
「嫌われる理由はなくなったわけだろ?詫びも込めてさ。俺のことも直也で良いから。」
「………。」
「つまり友達になろうって言ってんだけど?」
な?と笑った顔。
鋭かった眼差しは子供のようだ。
「分かった。」
「改めて、よろしくな。稔」
まぁ、先輩に危害がないなら問題ないか。
化学室のドアが開く。
「遅くなってごめんね」
佐崎先輩が顔を出した。
「珍しいですね。」
「掃除当番だったから。さて、今日は何をやろうか?」
今日も先輩は笑う。
この笑顔が無事なら、何でも良いか。
宮塚の問題なんて安いもんだ。
今日も部活が始まった。