化学室のドアが開いていた。

中には佐崎先輩の姿。

何かの実験をしているようだが、視線は空を浮いている。



「先輩、」


声をかけると、先輩は驚いて慌てふためいた。


「今日は部活休み」
「知ってます。」



中に入る。
どうやら先輩は電気分解の実験をしていたらしい。


俺が一歩近づくと、先輩は一歩下がる。
縮まらない距離。


「あの、どうしたの?」
「先輩は俺の誕生日を知っていますか?」
「え?ううん…知らないけど」
「9月25日です。」
「そうなんだ…もうすぐなんだね。」
「身長181㎝。血液型はAB。得意科目は数学、物理。苦手科目は家庭科。」


淡々と語る俺を、先輩は呆然と見つめる。


「好きな食べ物は野菜全般。嫌いな食べ物は油っぽいもの。好きな色は紺色。」
「は、早坂くん?」
「家族構成は父、母、妹。趣味は読書とDVD鑑賞。それから――好きな人は………」


一旦言葉を切って先輩に詰め寄る。
背中が壁にぶつかった先輩は逃げ場がない。

手を頬に添えると、ビクッと先輩が反応した。


「好きな人は佐崎 由貴先輩です。」