「もし勝てんかったら
焼肉奢ってもらうからな!!」
「はぁ!? なんでやねん!!」
「あんたが無責任なこと言うからや!!」
「おまえ、それが応援してくれる
人への態度か?」
「そうです。」
「可愛くないなぁ・・・」
「うっさい!!」
バシッ!!
私は宏大の腕を強く叩いた。
「痛っ!!」
「痛いことあるかい!!」
「痛いわ!!」
「うるさい!! 男やろ?
我慢せい!!」
「はぁ!? おまえそれでも女か?」
「一応ね、ちゃんと出るとこ出てるしな。」
美優は胸を張って立派な胸を
宏大に見せつけた。
「偽物ちゃうんか?」
「はぁ!? 本物じゃ!!
疑うんやったら触ってみい!!」
美優は胸を張ったまま宏大に一歩近づく。
「はぁ!?」
美優にぐいぐいと迫られ
うろたえる宏大。
「何?触らへんの?」
美優は悪戯にニヤリと笑う。
「さ、触るかっ!!」
「ふ~ん、宏大って意外とシャイなんやな?」
「はぁ!?
そうゆう問題ちゃうやろ!!」
「かわいい。」
「う、うるさいわ!!
早よ練習戻れっ!!」
宏大はそう言うと逃げるように
練習に戻って行った。
その後姿を見つめる美優。
宏大・・・
ありがとね。
絶対勝つからね!!
そして紗奈にリベンジする・・・
最後の夏・・・
絶対悔いは残さない!!
紗奈と当たるまでは
絶対に負けられない!!
「打倒双葉!!」
「「おおーっ!!」」
「絶対優勝!!」
「「おおーっ!!」」
「私たちは強い!!」
「「おおーっ!!」」
目標は大きく、私たちは
『優勝』を目指して大会に挑んだ。
私たちだってこの一年間、
死に物狂いで練習してきたんだ、
たとえ経験で負けても、
練習量は負けてない!!
実力だって絶対負けない、負けてない!!
私たちは強いんだ!!
私はぐっと拳を握りしめた。
そして夏の大会が始まった・・・
朝から会場は満席だった。
お目当てはもちろん
双葉学園、柴原紗奈だ。
会場はものすごい熱気に包まれていた。
そんな中で始まった夏の大会、
私たちは初戦を危なげなく勝ち
二回戦へと駒を進めた。
そして二回戦の相手はやっぱり、
去年ベスト8の沼野高校が勝ち上がって来た。
沼野高校・・・
去年ベスト8、優勝候補の一角・・・
すごい相手だけど、
負けるわけにはいかない。
絶対勝つ、絶対勝つ・・・
自然と体に熱いものが込み上げてくる。
それから沼野高校との二回戦・・・
ドクンッ。
あれ?
ドクンッ、ドクンッ。
美優は突然胸の鼓動に襲われた。
そして自分の手を見ると、
震えてる・・・
美優の手は小刻みに震えていた。
私・・・緊張してるの・・・?
初戦は体が硬かったものの
緊張はしなかった。
それなのになんで今?
今まであまり緊張を
感じることのなかった美優、
しかし、いろんな想いを
背負って臨むこの大会に、
今までにないプレッシャーを感じていた。
しかも相手は優勝候補の一角、沼野高校。
キャプテンとして、チームのエースとして、
そして紗奈と戦うため、
絶対に負けられない!!
そんなプレッシャーが美優を襲っていた。
どうしよう・・・
震えが止まらない・・・
「あれ? 美優?」
えっ!?
誰かが私の名前を呼んだ、
振り返ってみるとそこには・・・
「宏大・・・」
宏大が立っていた。
「どうしたの・・・?」
「いや、試合を観にな。」
「試合?」
ああ、そうか紗奈の試合か・・・
「紗奈の試合観に来たの?」
「ああ。」
「そう・・・」
緊張した不安な心に、
追い打ちをかけるような言葉・・・
そうだよね・・・
紗奈の試合だよね・・・
美優は悲しい気持ちを
隠すかのようにフッと笑った。
「おまえ、すごい汗やぞ?」
「えっ!?」
美優は言われて初めて気付いたかのように
額の汗を拭った。
「ちょっと待てよ・・・」
宏大はかばんの中をゴソゴソと
何かを探しだした。
「あった!! ほれ使え。」
宏大はリストバンド取りだすと、
笑顔で私に差し出した。
「えっ!? これ・・・?」
「大丈夫、ちゃんと洗ってる。」
宏大はそう言ってニコッと笑った。
私はリストバンドを受け取り顔の汗を拭う。
宏大の匂い・・・
リストバンドからは宏大の匂いがした。
宏大・・・
口元の汗を拭うフリをして、
二度三度と匂いを吸い込んだ。
その瞬間、なんだかホッとして
体の硬さがほぐれて行く・・・
宏大・・・
「どうした?」
「えっ!?」
宏大に呼びかけられ、ハッと我に返る。
「な、なんでもない!!」
「大丈夫か?」
「うん!!」
「そうか・・・」
宏大・・・
やさしい笑顔で私を見る宏大、
なんで、なんでこんなに
ホッとするんだろう・・・
「なんかね、私緊張してるみたい・・・
らしくないよね?」
美優は照れながら顔を背けた。
「美優。」
やさしい声で私の名を呼ぶ宏大
私はそっと宏大の顔を見上げた。
「大丈夫、おまえなら大丈夫や。」
「宏大・・・」
なんで? なんで宏大は、
そんな簡単に私の心を和らげてくれるの?
なんであなたはそんなにも・・・
美優は好きな人を前に
熱を帯びた少女のように
トロンとした目で宏大を見つめた。
宏大・・・
あなたが好き・・・