たった一試合、君と私の甲子園

「水玉・・・かぁ・・・?」


「水玉!? 何それ?」


佐久間くんが何やら
難しい顔をして考えてる。



・・・・・んんっ!?

水玉!?

えっ!?



「ちょ、ちょっと!!」


「んっ!?」


「水玉って・・・」


「おまえの下着?」



えっ・・・!?

やっぱ見られてた・・・!?



「変なモノと言えば
そのくらいやな。」


変なモノ・・・


美優の顔は一気に真っ赤になった。



「アホーっ!!
変態ぃぃぃー!!!」


美優がベッドにあった枕を持って
佐久間に殴りかかった。



「えっ!? なに!?」


「アホっ!! アホっ!!
何が野球男児やっ!!
ただのエロ学生やないかぁー!!!」


バシッ!! バシッ!!


「はぁ!? 
なんやねんおまえ!!」


「変なモノでわるかったなぁ!!
いつもはちゃんとしたの穿いてるわぁー!!」


「はぁ!? 
俺は別にそうゆう意味で・・・」


「うるさいっ!!」


バシッ!! 


「いてっ!!」


美優は容赦なく佐久間を叩く。


「思春期の乙女心を
傷つけやがってぇー!!!」


バシッ!!


「いてっ!!
ちょ、ちょっと待てって!!」


「この変態っ!!」


「うるっさぁーい!!!」


「えっ!?」


「えっ!?」


そんな美優と佐久間に
鮫島のカミナリが落ちた。


「ケンカするなら
外でやれぇー!!!」


美人なのに怒るとすごい迫力!!


私たちは言うまでもなく、
大人しくなった。



すごく恥ずかしいところを
宏大に見られたけど、
このことがキッカケで、
私たちは仲の良い友達になれたんだ。





保健室でのこと以来、
私たちは犬猿の仲と言われるほど
仲良くなった。


んんっ!? 犬猿!?
これって仲良いの!?



「美優、ちょっとノート貸して。」


「はぁ!? なんで?」


「なんで?」


「うん。」


「写すから。」


「はっ!? 嫌っ!!」


「なんでやねん?」


「授業中に寝てるあんたが悪い!!」


「はぁ!? ケチかおまえは!!」


「ケチで結構!!」


「おまえなぁ~!!」


「何よぉ~? やるん!?」


こんな風にいつも言い合ってる私たち。



でも、こんな時間が私は堪らなく嬉しいんだ。



宏大たちは夏の大会に向けて、
毎日練習に励んでいた。


私と友美はバレー部には入ったけど、
ほとんど仲良しクラブ。
一応練習はしてるけど、
宏大たちのように真剣にはやってない。


だから私たちは練習を終えると、
いつも野球部の練習を
物陰からこっそり見ていた。



「しかしよく頑張るよねぇ~。」


「うん。」


「うち(神楽)野球部は
毎年初戦敗退の学校だよ?
それなのにこんなに練習して・・・
外木場くんたちは本当に
この学校を強くするつもりなんだね・・・」


「そうやね・・・」


私たちにはない頑張りだ。


そんな宏大たちが私には
すごくカッコ良く見えた。


宏大たちは一年生の夏の大会、
無名校ながら県ベスト4に入るという、
快挙を成し遂げた。


惜しくも準決勝で負けてしまい
宏大たちは悔しがっていたけど、
神楽高校にとっては
創立以来初めてのことで、
学校全体が盛り上がった。



「宏大、すごいなぁ!!
ベスト4やろ?」


「いや、勝たなあかん、
甲子園行かな意味ないねん!!」


あくまで目標は甲子園、
そんな宏大がカッコ良くも
羨ましく思えた。


毎日泥だらけになりながら
頑張ってる宏大。


いつか・・・

いつか甲子園に行けるといいね。



私は陰ながら宏大を応援した。


夏が終わり三年生は引退し、
新チームになっての初めの大会、
秋季大会が始まった。


宏大たちは地区を制し県大会に出場、
そして順調に勝ち進み、
ベスト4へと駒を進めた。



そして放課後、準決勝に向けて
練習している野球部を見ていたら、
宏大が水場で顔を洗っているのが見えた。



ジャァァァー。


「ぷはぁーっ!!!
気持ちいい~!!」


宏大が練習途中、頭から
思いっきり水道水をかぶっていた。


「宏大。」


私はその背中に呼びかけた。


「んっ!?」


「美優?」


「頑張ってるなぁ~。」


「おう。」


宏大は持っていたタオルで顔を拭う。


「ベスト4やって? 
すごいやん!!」


「まぁな。
おまえらはどうや?」


「うちら? 全然あかんわ。
仲良しクラブやもん。」


「そうかぁ、まぁそれもええやん。
みんなが楽しくできてんなら。」


「そやけどね・・・
でも一度くらいは強豪って
言われてみたいやん?
柴原紗奈みたいになってみたい。」


「えっ!?」


柴原紗奈。
今、高校女子バレー界で
一番注目を浴びてる女の子だ。



「知らん? いや知ってるよな?
宏大、同じ中学やろ?」


「う、うん・・・」


あれ? なんか宏大の反応がおかしい?



「どんな子なん?」


「どんな子?」


「うん。 あの子バレーだけじゃないやん?
スタイルもいいし、可愛いし。
だからどんな子なんかなぁ~って。」


「普通の子やで。」


宏大は特に褒めるわけでもなく、
さらっと言葉を返してきた。






「ほんま?」


「ほんま?ってなんやねん?」


「いやぁ~ あんだけ可愛かったら
モテるやろうからさ
性格とか悪いんかなぁ~って。」


「フッ、そんなことないで、いい子や。」


「そうなんやぁ・・・
でも羨ましいなぁ~
バレーできて、可愛くて、
性格良ければ言うことなしやん。」


美優は羨ましそうに言った。



「おまえも可愛いやん。」


ドキッ!!


「えっ!?」


思ってもみなかった宏大の言葉に
私は胸が高鳴った。