「美優、来たか。」
「宏大・・・」
「無事に来れたんやな?」
「うん。」
「そりゃよかった。」
宏大はニコッと微笑んだ。
「おっ、旨そうなおにぎりやなぁ?
俺もくれや。」
「もちろん、どうぞ。」
私は宏大におにぎりを差し出した。
そして宏大がおにぎりに手を伸ばした時、
スッとタッパを引いた。
「えっ!? なんで!?」
「その前に・・・
昨日紗奈から電話会ったで。」
「あっ、そうなん?」
「あんたってホンマ無神経やな?」
「えっ!?」
宏大はわけがわからず首を傾げた。
「いや、鈍感なだけか。」
「なんやねんそれ!?」
宏大に女心をわかれって言う方が間違いか。
「まぁええわ。 どうぞ。」
美優はもう一度おにぎりを宏大に差し出した。
「サンキュ。」
宏大はおにぎりを取ると美味しそうに頬張った。
「んっ!? 美味い!!」
「そりゃそうやろ?
私の汗と手垢が付いてるねんもん。」
「えっ!?」
宏大は目を点にしながら食べるのを止めた。
「冗談やん、 ちゃんと手洗ってるわ!!」
「そうか。」
宏大はまたニコッとして食べ始めた。
美味しそうに食べてもらうと
めっちゃうれしいなぁ・・・
「宏大、紗奈は明日の決勝しか
来られへんねやろ?」
「ああ。」
「そうか・・・
じゃあ今日は絶対勝たなあかんな。」
「ああ。」
紗奈のため・・・か・・・
「とにかく今日はおまえが来れてよかった。
おまえの約束は果たした。」
「宏大・・・」
「せっかく見に来てくれたんや、
今日は絶対勝つ!!」
「うん。」
なんか宏大と話してるといろいろ考えてたことが
なんか違う気がしてきた。
決勝戦は紗奈のためだけど、
今日は私のためなんだ。
そうだ私のためなんだ!!
そう思うとすごくうれしくなった。
宏大、頑張って!!
そして準決勝第一試合が終わり
勝ち上がったのはやっぱり総士学園だった。
今年の春の選抜でも優勝してるし、
去年の夏の甲子園も優勝している強豪だ。
エースの浜崎智志と4番の松山裕樹はすでに
プロのスカウト陣から注目されている
今年のドラフト大本命の二人だ。
そして今から対戦する谷松商業も強豪校の一つ。
今年の春の選抜では準優勝している。
そんな強豪相手に大丈夫かな・・・
美優の心に不安が募って行く。
しかしみんなはそうではなかった。
「よぉ~し、行くぞぉー!!!」
「「「おおーっ!!!」」」
気合は十分、気負いしてる感じはまったくない。
宏大・・・
宏大もいつもより更に鋭い表情になっていた。
宏大、頑張って!!
『ウゥゥゥゥゥー!!!』
試合開始のサイレンと共にゲームが始まった。
先攻は谷松商業。
マウンド上の外木場くんは振りかぶって
第一球目を投げた!!
バシッ!!
『ストライーック!!』
渾身のストレートが内角低めに決まった。
「「「おぉぉぉぉぉー!!!」」」
一球投げただけでこの大歓声。
これが甲子園の準決勝という
大舞台のすごさを表している。
外木場テンポよく投げ、一、二番打ち取った。
そして三番バッターには、カウント3-2。
ここでファーボールを出せば4番の末次に回る。
末次もプロが目を付けてる強打者の一人、
ランナーを出して回したくない。
外木場は渾身のストレートを投げ込んだ!!
『ストライーック、バッターアウト!!』
ここは見事空振り三振で切り抜けた。
「やったぁー!!! 外木場くん最高!!」
友美のボルテージも最高だ。
そして今度は神楽高校の攻撃。
対するピッチャーはこれも
ドラフトの目玉、牧野優。
この牧野から点を取るのは容易ではない、
なるべくなら調子を上げさせる前に
点を取りたい。
「頼むぞぉー!! 中井!!」
今日から一番に復帰した中井耕一が
バッターボックスに向かう。
牧野が第一球目を投げた!!
バシッ!!
『ストライーック!!』
牧野も初球はストレート、
コントロールされた球は外角ギリギリに決まった。
「「「おぉぉぉぉぉー!!!」」」
牧野の投球にもすごい歓声が上がる。
外木場と違って力で押すタイプではなく、
制球で勝負する牧野、この相手は手強い。
牧野は1番中井、2番高崎を簡単に打ち取った。
そして3番大松・・・
大松が塁に出れば宏大に回る。
「隆之、俺に回せよ。」
「おう。」
しかし・・・
『ストライーック、バッターアウト!!』
大松は三振に倒れた。
「くそっ!!」
バットを叩きつけて悔しがる大松。
牧野も同様、大松を塁に出し
宏大に回したくなかったのだろう。
大松を三振に取る投球で攻めた牧野。
やっぱり手強い・・・
その後も外木場、牧野、共に力投を続けた。
しかし5回表、神楽高校はピンチを迎えた。
ファーボールとエラーで無死一、二塁、
そして送りバンド試みた谷松商業、
しかしキャッチャー大松の好判断で三塁を阻止!!
ランナーを進めることなく一死一、二塁になった。
しかし今度は外木場の
ストレートをジャストミートされ、
センター前に抜けようかという打球!!
しかしそれをショート高崎が
ダイビングキャッチ!!
すぐさまセカンドへトスして
二塁をアウトにした。
しかしまだピンチは続く、
二死一、三塁でバッターは4番の末次・・・
外木場の顔から闘志が滲み出ている。
「智徳ぃぃぃー!!! 頑張ってぇー!!!」
友美の応援にも熱が入る。
んんっ!? いつの間にか呼び捨て?
バシッ!!
『ストライーック、バッターアウトォォォー!!』
「よっしゃぁぁぁー!!!」
ここで外木場くんは末次を
見事空振り三振に打ち取り、
マウンド上で拳を握り叫んだ!!
「「「うおぉぉぉぉぉー!!!」」」
外木場くんの三振に甲子園は揺れた!!
「ナイスピッチ智徳!!」
「よく抑えた!!」
みんなが外木場くんを笑顔で迎える。
「やったぁー!!!
さすが私の智徳ぃぃぃー!!」
友美も横でハイテンション!!
あなたのじゃないけどね。