そして外木場は最終回のマウンドへ・・・
気合の投球で一人、二人と打ち取り、
最後のバッターを・・・
『ストライクバッターアウト!!
ゲームセット!!』
三振で締めた。
「「「わぁぁぁぁぁー!!!」」」
マウンドに駆け寄る神楽ナイン!!
抱き合い喜び、人差し指を天高く突き上げた。
夏の大会初めての栄光を手にした。
『祝!! 神楽高校甲子園出場!!』
学校には大きな垂れ幕が飾られた。
宏大・・・
また一つ約束を果たしてくれたね。
あなたは本当にすごいよ・・・
宏大、おめでとう。
甲子園出場を果たした野球部は休むことなく
甲子園練習へ向けて練習を始めた。
私は用もないのに学校へ行き
野球部の練習をこっそり物陰から眺めていた。
すると、冷水機に向かって宏大が歩いて来る。
宏大・・・
「宏大。」
「おっ、美優。 どうした?」
「うん、ちょっと調べ物があってね。」
「そうか。」
本当は宏大を見に来たんだけどね。
「甲子園出場、おめでとう。」
「おう、サンキュ。」
「本当に実現してしまうんだもんなぁ~
宏大はホントすごい。」
美優は優しい笑みで宏大を見た。
「約束したやろ?
おまえが甲子園見に来れるように、
それまで勝ち続けるって。」
「うん。」
ちゃんと憶えていてくれたんや。
美優は胸の奥があったかくなった。
「まぁ、俺だけの力とちゃうけどな。」
「そうだね。」
「けど、ホームランで決めるなんて、
宏大はホントすごいよ。」
「フッ。」
宏大は嬉しそうに笑った。
「約束への第一歩や、
美優が甲子園来れるように頑張るわ。」
「うん。」
美優は満面の笑みで答えた。
宏大、楽しみにしてるよ、
宏大が甲子園でプレイする姿を見れることを・・・
後日、甲子園の抽選会が行われた。
神楽高校は大会四日目の第三試合。
やっぱり私は見に行くことができないみたい・・・
仕方ないか・・・私が帰ってくるまで
勝ち続けてもらうしかないね。
♪♪♪♪♪
そんな時携帯が鳴った。
宏大・・・
「はい、もしもし?」
「美優か、俺や。」
「うん、どうしたの?」
「悪いなぁ、初戦は四日目になったわ。」
「そうみたいやね。」
「一日目とかやったら見に来れたのになぁ・・・」
「フフッ。 でも勝ち続けてくれるんでょ?」
「もちろん。 一試合じゃなく
二試合見せたろうと思っただけや。」
宏大・・・
「しっかり勝ち続けてよね?
負けたら承知しないんだから!!」
「わかっとう、任せとけ!!」
「うん。」
「紗奈は・・・甲子園見に来られるの?」
「いや、微妙やな。」
「そうなん? でも夏の大会は終わったやろ?」
そう、美優は見事全国制覇を果たしたのだった。
春高に続いての連覇達成!!
まったくあの子には驚かされる。
「うん、大会は終わったんやけど、
全日本の国際大会に参加するみたいで
日本にはおらへんねん。」
「全日本!?」
「うん。」
全日本・・・
紗奈が全日本・・・
私には全然遠いことなのに
紗奈にとってはすごく身近なことなんだね・・・
全日本かぁ・・・
「じゃあ一試合も見に来れないの?」
「見れて決勝戦くらいかなぁ~・・・」
決勝戦・・・
「じゃあ、ますます勝ち続けるしかないね?」
「そうやな。」
そっか、そうゆうことか・・・
宏大が勝ち続ける理由は紗奈の為でもある、
いや紗奈のためなんだ。
そうだよね・・・
私は胸がギュっと締め付けられた。
紗奈、甲子園見に来られなかったらいいのに・・・
私はふとそう思ってしまった。
はっ!?
私なんて最低なことを・・・
でも、悲しいけどこれが本心なんだ・・・
私は最低な人間だ。
そしていよいよ甲子園が始まった。
私は田舎のおばあちゃんの家に帰り、
紗奈は海外へと飛び立った。
私はおばあちゃんの家のテレビから
宏大たちの応援をした。
地元にいる友美は毎試合見に行ってるみたいで、
試合後は必ず写メを送ってくる。
「いいなぁ~私も見に行きたい。」
でも紗奈のことを思い出すと胸が苦しくなる。
いっそのこと負けてくれないかな?
そしたら私も、紗奈も傷つかなくて済む。
ってまた、何感がてるんだ私は!!
紗奈もじゃない、
自分が傷つきたくないだけじゃない!!
そのために宏大に負けてほしいって、
私はホント自分勝手な最低女だ!!
宏大・・・
ホントは勝ってほしい、
優勝してほしいんだからね?
宏大、ホントだよ・・・
宏大たちが率いる神楽高校は甲子園でも
その強さを発揮し勝ち上がって行った。
そして・・・
『ストライクバッターアウト!!
ゲームセット!!』
「「「わぁぁぁぁぁー!!!」」」
『夏の甲子園初出場の神楽高校、
ベスト4を決めました!!』
「「「わぁぁぁぁぁー!!!」」」
湧きあがる歓声!!
宏大・・・
本当にここまで勝ち上がったんだね・・・
私は胸の奥から熱いものが込み上げて来た。
すごいよ・・・ホントすごいよ・・・
「ううっ・・」
私はテレビの前で涙した。
純粋に宏大たちの頑張る姿に感動したんだ。
その夜・・・私は迷っていた。
明日の準決勝見に行こうかどうかを・・・
私みたいな悪い女が宏大の試合を
見に行っていいのかな?
紗奈にはみせたくないからって、
負けてほしいなんて
一度でも思った自分が
試合を見ていいのかな?
私はすごく心が痛んだ。
♪♪♪♪♪
すると携帯が鳴った。
紗奈!?
「はい、もしもし・・・」
「あっ、美優?」
「うん、どうしたの? 今どこ!?」
「まだイタリアにいるんだ。」
「イタリア!?」
「うん。」
本当に海外にいるんだ・・・
私は改めて紗奈のすごさを実感した。