「美優!!」
その時、私の名を呼ぶ声が聞こえた。
聞きなれた愛おしい声・・・
「宏大・・・」
「何してるんや?」
泥だらけのユニホーム、
夕日に照らされた笑顔・・・
宏大・・・
「いや、ちょっとね・・・」
美優は部室の方へ目を移しそう答えた。
「そうか。」
「紗奈に負けて、すっきり引退って
思ったのに・・・」
「美優?」
「悔しいよ・・・
やっぱ悔しいよ・・・」
美優は笑顔で宏大の方を振り向く、
その目からは涙が一筋流れた。
「美優・・・」
「ごめん。」
美優は慌てて涙を拭った。
すると、宏大の大きな掌が美優の頭を覆った。
「惜しかったな・・・」
「宏大・・・」
「おまえはよく頑張った。
めっちゃ・・・頑張った。」
宏大・・・
宏大の言葉で我慢していたものが
一気に溢れだした。
「宏大!!」
美優は宏大の胸に飛び込んだ。
「お、おい!!」
「ううっ・・・悔しい・・・
悔しいよ・・・」
美優は宏大の胸で声を上げ泣き出した。
「美優・・・」
宏大は行き場のなくしていた手で
美優の背中をやさしく抱きしめた。
美優は宏大の胸で思いっきり泣き続けた、
宏大はただ黙って美優を抱きしめていた。
夕日はそんな二人をやさしく包み込むように
オレンジ色に照らしていた。
夏が終わって私たちは一足先に
受験シーズンへと突入する。
でも宏大たちはまだ夏の大会の真っ最中、
私と友美は教室から
宏大たちの練習を眺めていた。
「ねぇ美優、大学どうする?」
「大学!?」
「うん、私大学行けるかなぁ~・・・
偏差値低いしなぁ・・・」
「大学かぁ・・・」
大学でバレーをするって手もある。
でもやっぱ大学より企業団体に入るほうがいいよねぇ、
んんっ!? バレーって確か、プロがあったよね?
プロかぁ~・・・そんな簡単に入れるのかな?
「ねぇ、美優!! 聞いてる!?」
「えっ!? ああ、大学でしょ!?
うん、頑張って!!」
「はぁ!? なにその人ごとは?
美優だって大学行くんでしょ?」
「私? 私はプロになる。」
「はぁ!? なんの?」
「バレーの。」
「はい!? 美優バレエできんの!?」
「バレエじゃなくて、バレーボール!!」
「はぁ!? あんた何言ってんの!?」
「紗奈に誘われたんだ、プロになって、
いつか日の丸を背負って
一緒にオリンピックでようって。」
「はぁ!? あんた正気?
なに紗奈がいったこと真に受けてるの?
プロなんかなれるわけないでしょ!!
アホちゃうん?」
「紗奈が私ならなれるって言ったもん!!」
「そんなのお世辞に決まってるじゃない、
なに真に受けてるのよ? アホちゃうん?」
「そこまで言わんくても!!」
「そうやって!! まったく・・・
佐久間くんに手出すからからかわれてるんよ。」
友美はそう言って呆れてる。
紗奈はお世辞なんか言わない、
それに宏大は関係ない!!
紗奈はそんなことで意地悪しないよ!!
とは思ったものの、私は不安になった。
宏大のことはないとしても、
実力的には自信が持てない部分もある。
あれは本心でそう言ってくれたんだ。
そうだよね、紗奈・・・?
宏大たちは順調に勝ち進み
ベスト8まで上りつめた。
そして紗奈たち双葉学園も県を制し、
近畿も制して、全国大会出場を決めた。
さすが紗奈、やっぱり双葉学園は強い。
負けた私たちも健闘した方かな?
紗奈たちと戦えたことを誇りに思うよ。
宏大たちが頑張っている間に、
学校は夏休みに入っていた。
私は昼間からすることがなくて
ダラダラ過ごしていた。
♪♪♪♪♪
すると携帯が鳴った。
友美?
「はい、もしもし。」
「あっ美優? 今夜暇?」
「えっ!? 暇やけど・・・」
「だよね。」
カチン。何その言い方?
どうせ暇ですよ!!(怒)
「で、どうしたん!?」
「今夜花火しようよ?」
「えっ!? 花火?」
「うん、外木場くんたちとさ。」
「えっ!?
でも野球部は今大会中でしょ?
学校で合宿してるんじゃ・・・」
「ちょっとくらい大丈夫でしょ?
ねぇ、行こうよ。」
「う、うん・・・」
大丈夫なのかな?
もし火傷でもしたら大変なのに・・・
でも夏休みに入って全然宏大に
逢えてなかったから
ちょっとうれしいけど。
ふと宏大に抱きしめられて
泣いたことを思い出した。
「じゃあ、7時に学校でね。」
「・・・・・」
「美優、聞いてる?」
「えっ? あ、うん。わかった。」
「じゃあ後でね。」
「うん。」
私は一人ニヤニヤしていたことに、
恥ずかしくなって顔を押さえた。
花火かぁ・・・
何着て行こうかなぁ~・・・
美優は飛び起き、鼻歌を歌いながら
ルンルン気分でクローゼットを開いた。
集合時間の7時に行くと、
もうみんな来ていた。
「遅いぞ美優!!」
「ごめん!!って、7時ちょうどやん!!」
「女やったら10分前には来い!!」
「はぁ!? それって男女差別やん!!」
「なに!?おまえ口答えすんのか!?」
「はぁ!? あんたこそ何様よ!!」
来るなり大松くんが絡んで来て、
いつもの言い合いになる。
「はいはいそこまで!!
あんたらホンマ仲良いなぁ?
付き合ってるんちゃうん!?」
「「はぁ!? 誰がこんな奴!!」」
「ハモッてるし!!」
「誰がこんな!! 私は宏・・・」
「こう!?」
「いや、なんでもない・・・」
私は宏大が好きなんや!!
大松くんなんかとちゃうわ!!