たった一試合、君と私の甲子園

バシッ!!


「拾った!!」


美優は片手でそのボールを拾った。


「「「おぉぉぉぉー!!!」」」


しかしそのままコートを囲う壁に・・・
『ドカン!!』美優は激突した。


「美優!!」


友美は美優が上げたボールを必死に拾い
相手コートに返した。


ボールは・・・返った・・・の?


美優は倒れ込みながらボールの行方を追った。


しかし・・・


バシッ!!


紗奈の強烈なスパイクが
神楽コートに突き刺さった。


あっ・・・


『ピィィィー!!!』


審判の大きな笛の音が鳴り響く。



「「「おおぉぉぉぉぉー!!!」」」


その瞬間会場は大きな歓声に包まれた。


負けた・・・


『第二セット 25-16双葉学園。


セットカウント2-0で双葉学園勝利!!』


「「「おぉぉぉぉー!!!」」」


鳴りやまない歓声。


会場のみんなが双葉学園の勝利を
祝福してるようだった。


「美優!! 大丈夫!?」


友美、そしてみんなが美優のそばに駆け寄る。


「う、うん・・・」


美優はニコッと微笑んだ。



「美優!!」


そしてみんなの後ろから駆け付けて来たのが、


紗奈・・・・


「美優、大丈夫!?」


紗奈は私のそばに来て屈み、
そっと体を抱き起こしてくれた。


「紗奈・・・大丈夫だよ・・・」


「そう、よかった・・・」


紗奈は安心したように一つ息を吐いた。


「紗奈、やっぱりあなたには
敵わなかったなぁ・・・」


「美優・・・」


「私なりに頑張って来た
つもりやねんけどなぁ・・・
やっぱりあなたには勝てなかった・・・」


「フッ、当たり前でしょ?
私を誰だと思ってるの?」


「フフッ。キツイなぁ~・・・」


「フフッ。」


そう言って二人は笑った。


「さぁ、最後の整列だよ? 立てる?」


「うん。」


美優は紗奈の肩につかまり起き上った。


「行こう。」


「うん。」


紗奈は友美に美優をあずけ、
お互いが自分たちの整列場所に戻る。


「「「ありがとうございました。」」」


そして私たちは最後のあいさつをした。



私たちの夏が終わった・・・




私たちは荷物をまとめ会場を後にしようとすると、


「神楽高校よく頑張った!!」


えっ!?


「1番ナイスファイト!!」


1番というと美優の背番号、
美優はスタンドを見上げた。


「いい試合だったぞ!!」


「感動した、ありがとう!!」


次々と神楽高校に声が掛けられた。


私たち・・・?


神楽の選手はみんな、
ぼんやりとスタンドを見上げていた。


そして大きな拍手が沸き起こる。


私たちへの・・・拍手・・・?

うそでしょ・・・


私は胸はギュッとなり、
熱いものが込み上げた。


「美優・・・」


私を呼ぶ名前に振り返ると
みんな同じ気持ちになったのか、
涙を流していた。


私もドッと涙があふれる。


「美優、頑張って来てよかったね・・・」


友美・・・


「うん・・・」


私は友美の言葉に笑みがこぼれた。


よかった・・・

今まで頑張って来て本当によかった・・・


私たちは温かい歓声につつまれながら
会場を後にした。


「美優。」


「紗奈・・・」


会場の外に出ると紗奈が立っていた、
私は紗奈の元にに歩み寄る。


「すごい歓声だったね。」


「うん、私もびっくりした。
まさか敗者の私たちに声を
掛けてくれるなんて
思ってもなかったから。」


「それだけ会場の人たちの心を
射止めたってことだよ、」


「ええ? そうかな・・・」


「そうだよ。」


紗奈はニコッと笑った。


紗奈がそこまで言ってくれるなら
そうなんだろう、
私はそう思い素直に喜べた。

「美優、今日はありがとう。
本当に楽しかった。」


紗奈・・・


「お礼を言うのじゃこっちの方だよ。
私は紗奈のおかげでここまで頑張って来られた。
紗奈という目標があったから
今日まで頑張ってこれた。
紗奈、本当にありがとう。」


「美優・・・」


本当にそうなんだ、紗奈がいたから私は
頑張ってこれたんだ。
そのおかげでこんなに楽しく、
こんなにうれしい思いをさせてもらった。


紗奈には本当に感謝に一言だよ。


でもやっぱり紗奈には敵わなかったけど、
バレーも恋も・・・


「美優、私たちの戦いはまだ始まったばかり、
またコートで会おうね。」


「えっ!? またコートでって、
もう私たちの夏は終わったよ?」


「えっ!? 
社会人になってもやるんでしょ?」


えっ!?


美優は予想もしてなかった紗奈の言葉に
目を丸くして驚いた。

「社会人・・・?」


そんなこと考えたこともなかった・・・


「社会人って、そんなの無理でしょ?
紗奈みたいに実力があれば別だけど
私みたいな下手っぴな奴が
社会人でバレーなんて・・・」


「美優、あなた
自分の実力がわかってないの?」


「えっ!?」


私の実力!?


「あなたの今日のサーブは本物だった。
これからもっと精度を高めていけば
世界でも必ず通用するよ。」


私のサーブが世界に通用する?


「美優はまだ成長段階、
プレーはまだ荒削りだけど、
練習すればもっともっと上手くなる。
ここでバレーを辞めるなんてもったいないよ!!」


私がもっと上手くなる・・・?

紗奈、あなた何言ってるの・・・?



「紗奈、からかわないで、
私なんかが・・・」


紗奈が真剣な目で私を見てる。


紗奈、本気なの・・・?


「美優、社会人でもやるでしょ?」


「えっ・・・」


そりゃ、やれるもんならやりたい、
また紗奈と戦いたいけど・・・


「一緒にやろう? 世界と戦おう?
日の丸を背負って!!」


「世界!? 日の丸・・・!?」


「うん、私と一緒に世界と戦おう。
そしてオリンピックで金メダルを取ろうよ!!」


オリンピック!? 金メダル!?


次々と紗奈の口から考えたこともないような
言葉が出てくる。


「ちょ、ちょっと待って!!」


ダメだ急過ぎて頭の整理がつかない。